GIVE PEACE A CHANCE!
CHANCE! (平和を創る人々のネットワーク)インタビュー




CHANCE!参加メンバー:内山隆、海南友子、志葉玲、りぼん山本
取材:加藤梅造(LOFT PROJECT)

 春の訪れにはまだ少し早い2月24日。天気にも恵まれ代々木公園には多くの人が集まり休日の午後をのんびりと過ごしている。ストリートミュージシャンやダンスチーム、大道芸人らの姿も多く、それぞれが思い思いのパフォーマンスを披露していた。
  そしてこの日、CHANCE!が主催する10回目のピースウォークがこの代々木公園からスタートした。先導するトラックからはジョン・レノンやボブ・マーリー、スライ&ザ・ファミリーストーンらの曲が大音量 で流され、思い思いの格好をした参加者はそれぞれに歌ったりジャンベを叩いたりしながら、買い物客で賑わう渋谷の街をゆっくりと歩いていく。すれ違う通 行人や車の反応は様々で、車の窓からピースサインを送るロッカー風の人もいれば、通 行をじゃまされて露骨に空ぶかしをして走り去る車もいる。ただ、ひとつ言えるのは、天下の往来を音楽に身を任せてのんびり歩くことのなんと気持ちの良いことだろう!  

 ピースウォークが始まったのは、昨年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件がきっかけだった。最初のピースウォークはテロ事件から12日後の9月23日、メールや口コミで呼びかけられた数百人の人が渋谷に集まって行われた。
志葉「9月11日のニュースを見たサイエンスライターの小林一朗と環境団体A SEED JAPANの羽仁カンタが、これはほおっておくと大変なことになると思って、9月14日の時点で緊急に具体的なアクションを提案したメールを流した。それが思わぬ 反響を呼んで、あっという間に1000人以上のメーリングリスト(以下ML)ができたんです。」
 そのMLが基になってCHANCE!は立ち上がった。当時、従来からある政治団体や市民団体も反戦デモを行ったが、まったくゼロから始まったCHANCE!のピースウォークは他の反戦デモとはかなり様相を異にした。
志葉「CHANCE!のやっているのは、あくまでウォークであってデモではないんです。やっぱりこれまでの反戦運動──のぼりを立てたりヘルメットを被ったりタオルを巻いたりっていうのが、若い人達には受け入れられないだろうと思って、新しいスタイルでやろうと思ったんですね」
 そしてこのインターネットを使った新しい市民運動(?)は、あっという間に全国に広がった。
海南「他の地域の人達とも一緒にやれるっていうのは、やっぱりネットの威力が大きかったですね。ピースウォークは各地で次々と開催されていって、それこそ同時多発な感じでした」
 こうしてCHANCE!は全国に広がったが、それらは決して一つの組織として活動しているわけではない。
内山「各地のピースウォークはそれぞれが独立してやってます。それはネットで知り合った人だったり、東京のピースウォークに参加した人が地元で行ったり、きっかけは様々。要するにCHANCE!はひとつの団体ではなくてネットワークなんです。インターネットと同じですね」
 では、CHANCE!として最低限の合意事項みたいなものはあるのだろうか?
海南「一番最小限の合意としては、従来型のデモではないものにしようってことですね。」
山本「以前から何か運動をやっている団体だとそれまでのやり方があると思いますが、CHANCE!ではMLやピースウォークで出会った人達が雰囲気を共有しながらやっているという感じです」

 CHANCE!には代表もいなければ幹部といったものも存在しない。発起人の小林も代表ではなく単なる呼びかけ人だ。現在CHANCE!には、ピースウォーク以外にも、それぞれ目的を持ったプロジェクトが10以上立ち上がっているが、それらは中央集権的に決められたものでなく、それぞれの言い出しっぺが好き勝手に仲間を集めてやっているもののようだ。
海南「ネットでCHANCE!に興味を持った人が、ふらっと事務局に来て、翌日から1週間通 う人なんかもいますよ。もちろん最初に来る時は『左翼のアジトだったらどうしよう?』っていう不安はあるみたい(笑)」
 事実、それまで某有名企業のサラリーマンだった内山は、CHANCE!に始めて関わった頃を次のように回想する。
内山「僕はメールで小林さんの呼びかけ文を読んだのがCHANCE!に入るきっかけでしたね。しばらくしてある会議に参加することになったんだけど、行くまではやっぱり変な革命集団みたいだったらどうしようという不安はあったんです。
  でも、行ってみたらけっこうみんな若い、デザイン系やデジタル系の仕事をしてる人がたくさんいて、こういう雰囲気だったらいいなあと思いました。」

 現在CHANCE!のシンボルマークは黄色いリボンだが、これには黄色のリボンを身につけることで平和を支持する意思表示をしようと意味がある。この、リボンをつけるプロジェクトを始めた山本も内山と同様、CHANCE!に関わる前は市民運動の経験が全くなかった。
山本「小林さんの呼びかけ文を読んですぐにMLに入ったんです。そこで何か自分として意思表示ができることはないかと考えて、思いついたのがリボンだった。それをMLで提案したら、すぐに小林さんから返事がきて、その日の会社帰りに事務所に行ったんです。
 実は、自分は今まで反戦運動は男の人達がやるものだと思っていて、全然興味がなかった(笑)。でも(テロ事件以降)『これはまずいんじゃないかな』って思って、生まれて初めて何かしたいと思ったんです。そういう思いを行動に結びつけるのはすごく難しいことだと思うんですが、そこにCHANCE!っていう窓口があったのは大きかったですね」

 こうした敷居の低さがCHANCE!の魅力であることは間違いないが、一方で従来から市民運動やNGOなどでアクティブに活動していた人もCHANCE!にはたくさんいる。例えば、ジャーナリストの志葉玲もそうしたうちの一人だ。
志葉「僕はフリーランスでライターをやっていて、パレスチナに行ったりコソボに行ったりしてたんです。でも取材とかしていると頭にくることが多くて、特にテロ以降、自分は書いてるだけでいいのかな?っていう疑問があった。ただ、従来の反戦運動には個人的には共感できても客観的には世の中から浮いているあと思ってたんです。とにかく若い人が全然いない。こういう状況ってまずいなと。
 そんな時にCHANCE!のピースウォークに参加したんだけど、音楽を流したり、仮装してたり、バナーもカラフルで楽しい感じだったりして、へぇ〜こういうことをやってる所が日本にもあるんだなって思ったんですね。それで実際にコミットしてから思ったのは、CHANCE!は非常に初心者向けなことをやっている一方で、勉強会などではかなりつっこんだこともしてて、これは積極的に関わったらおもしろいなと思ったんです。」
 そして現在、志葉は日本にいるアフガン難民(多くの人が入国管理所の施設に強制収容されている)を助けようというプロジェクトに関わっている。これはきわめて政治的なアクションであり、ジャーナリストである志葉の本領を発揮するには最適だったのかもしれない。
志葉「でも僕と一緒にやってる人はそれまで普通の学生だったのが、この問題を知ってから活動を始めて、今一番アクティブにやってますよ。ある意味、動機がすごく純粋で意志が強いんですね。ジャーナリストの中には、もちろん素晴らしい人もいますけど結構いい加減な人も多いんです。それに比べればアマチュアの方がよっぽどいい仕事をしてると思いますね」
 もちろん、ルーチンワークに慣れてしまったサラリーマン記者よりも、純粋な素人の方がいい仕事をするというのはよくあることだ。しかし持続力という面 からみると、やはりお金をもらっているプロの方がアマチュアよりも優位 であることは確かだ。
 ではCHANCE!が運動を持続させる原動力とは一体何なのだろう?

内山「やっぱりそれは一人じゃないってところじゃないですかねえ」
志葉「僕はこれまでずっと一人でやってきたから特に感じるんだけど、MLやピースウォークなんかで、どこかしら繋がりがあるっていうのは活動を持続させる大きな力になってますね。」
内山「あと、ピースウォークとかやると必ず始めて参加する人が来てるんです。そういう新しい力っていうのが、運動の持続にとって非常に大切なんだと思いますよ」

 2/28からの連続上映『いま、戦争を考えるドキュメンタリー』(註1)を準備している海南は、自身もドキュメンタリー監督として活動している人だ。
海南「私は学生の時に一人で東南アジアとか回ってたんですけど、そうすると何度も日本の戦争の傷跡に出会ったりするんです。その後NHKに入ってドキュメンタリーを撮ってたんですが、そこではなかなか戦争を扱う機会がなくて、会社を辞めて自分の中の戦争について考えてみたんです。
 それで撮ったのが映画『マルディエム──彼女の人生に起きたこと』(註:インドネシアの元・慰安婦を追ったドキュメンタリー)で、その映画を作りながら考えたのは『なんで戦争になったのかな』ってことでした。被害者のおばあさんや加害者の日本兵の話を聞くうちに、戦争において何が正しいかというのはすごく難しいなと思ったんです。もちろん彼女は被害者なんだけど、日本兵にしても加害者であると同時に戦争に行かされたという被害者でもあり、結局、戦争を起こさないことが一番大事なんだなって思ったんです。
 そう思ったところにテロが起こって、50年以上前の戦争どころじゃなくなってしまった。とにかく今の戦争をなんとかしないといけないと思い、CHANCE!に関わるようになったんです。今回の戦争はもちろん不幸なことだけど、これをきっかけに平和な世の中にしなければいけないと思います。まさにそれがチャンスですね。一方で、日本を軍国化するチャンスだと思っている人もいると思いますけど。」

 小泉政権が今国会で成立を目論んでいる有事法制(一説には、アメリカが次にイラクを攻撃した時に日本も参戦できるようにするための法整備と言われている)については、3月9日と3月10日の2日間に渡って行うイベント(次ページ参照)において最大のテーマとなるはずだ。
海南「3/10のイベントで、東京大空襲を経験した人の話とアフガンに行った人の話を同時に話してもらうことで、過去と現在が繋がって見えると思います。実際起きていることは同じだと思うし、逆に兵器が進歩したことを考えれば状況はよりひどくなっている。実際、今の日本はアメリカの戦争に加担しているわけだけど、それでいいのかってことを語れればいいなと」
志葉「先進国はずっと経済的な侵略をやってきたわけだけど、その延長線上に今回の戦争があるっていう構造は昔とちっとも変わってないよね」
内山「今回、空襲体験者の話を聞くっていうのは決して過去の話を聞くだけのことじゃないんです。例えば戦時中、空襲で行方不明になった家族を捜す前に、近所の焼死体を埋めなければいけなかったんだけど、それってまさに当時の有事法によって決められてたわけでしょ。こういう話を聞くと、今の国会で上程される有事法制っていうのがまさしくこういった性格のものだってことがリアリティを帯びてくると思います」

 (文中敬称略)

(註1)2月28日(木)〜3月4日(月) CHANCE!/VIDEIO ACT! 合同企画
『いま、戦争を考えるドキュメンタリー』  http://member.nifty.ne.jp/atsukoba/vact/020228.htm


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