くるり





2002年型くるりの真髄は“豆腐エレクトロ”にあり!

 ギターに大村達身が正式加入して初のシングル「ワールズエンド・スーパーノヴァ」に続き、今月20日には4thアルバム『THE WORLD IS MINE』を発表するくるり。新作中心の話を訊こうと思いきや、いつの間にか全国津々浦々の食い倒れ与太話に終始した腹八分目インタビューを奪取した! 何度もおかわりしたくなる充実作を携えて、34ヵ所38公演にも及ぶツアーも間もなく開始、はらぺこの五感で臨んでもお腹いっぱいに満たしてくれるごっつぉライヴになること間違いなしだ!    
(interview:椎名宗之+樋口寛子)


●わかりやすいものを如何に判りやすく伝えるか
─大村さんがくるりに加入されたことで、バンド内の化学変化はどんな具合に起こってますか?
岸田 繁(Vo&G) 彼は割とブレーン的な役割も担ってるんで、アイデアなり曲の主観が増えるわけですから、そこで方向性みたいなものを定めたり、評価したりする部分で変わってきましたね。
─大村さんはくるり加入前にご自分のバンド活動を?
大村達身(G) そうですね、細々とちょこちょこやってました。彼らとは元々大学の同じサークルで、学年は俺が1つ上になるんですよ。
─今度のアルバムはポップ度がうんと増して、大村さんのギターががっつりハマって全体的に曲が引き締まってる感じがしたんですけど。
岸田 今まではギターが入ってる曲やったら全部俺がダビングして重ねてましたから。喩えるなら、全部肉ばっかりのところに、肉と相性のいい茄子がうまく絡み合ったというか…(大村氏を見て)本当に茄子みたいな頭してるし(笑)。茄子が肉の本来持ってる旨味を引き出したというか、その逆もあったり、聴こえへん音が聴こえてきたりとか。
─大村さんが触媒になったことで活性化された部分が音にも表れてますよね。
岸田 彼と違うタイプのギタリストが入ってきてたら、また全然違ったかも判らへんけど…なかなかバンドの根元の部分にまで入ってくるのは難しいと思うんですけども、そこが彼は凄く合ってたから。
大村 くるりに入ってやりづらいことは全然ないです。ギターもリズムっぽいこととか、できへんことをやってくれるから。音楽的な面 での苦労はないですね。個人的な技術の上達とかでの苦労はあるけど。結構、くるりって音楽的に判りやすいバンドだと思うんですよ。だから、“判りやすいものを如何に判りやすく伝えるか”ってことをちゃんとしてたら全然大丈夫。
岸田 流れに逆らわずというか、自然発生的に生まれたものをやってたら絶対判りやすいはずだと思うんですよ。それをパッケージしていくというのは、その過程で何人もの思惑が絡んでくるわけやから、どうしても拡散してしまったりするんですよね。そのなかでどれだけ判りやすいものを作っていくかってところが、凄い大事。
─難解に作り込んだほうがずっと簡単ですよね。足し算でいいわけだから。
大村 “簡単”ってことと“判りやすい”ってことは全然違うと思うし。簡単なことばかりやってると、かえって判りにくくなる。例えば相手に想いを伝える時でも、「好き」ってありふれた言葉やから余り響いてこない。どういう風に「好き」か色々工夫して伝えるようにして、最終的にシンプルなところに持っていく。シンプルやけど在るべきところには伝わる。ただ、それには凄い集中力が要る。
岸田 そう、集中力が一番やっぱり必要な要素やったりしますね。要はその集中力の持っていきどころだと思うんですけど。その作業がしんどければしんどいほど、やってる時間はあったりしますから。ただ、それを履き違えるとプログレになってしまう。難解になって、余り意味がなかったりする。
─今度のアルバムはイギリスでレコーディングされたそうですが。
岸田 半分くらいをロンドン近郊の田舎で録りました。ホップを乾燥させるサイロを改造して作ったスタジオで。スタジオが絵本チックというか、結構かわいい建物なんですよ。こんな所でプロポーズしたら皆落ちる、みたいな。
森 信行 (Ds) 落ちるよ、あれは〜(笑)。
佐藤征史 (B) エンジニアさんが完璧に改造してスタジオにしてるから、隅々まで知り尽くしてはって、作業がやりやすかったです。 岸田 だけど、「こんなメルヘンな所になんで野郎4人でおらなあかんねん!?」って思ったな。
一同 (爆笑)

●博多の魚にはエッジがない!?
─去年から今年にかけて数々の強者バンドと共演されてますが、特に影響を受けたバンドっていますか?
岸田 俺は今、モーサムがすべてですね。「あれが全部正しい!」って思い込んでるかも。…それは言い過ぎですけど(笑)。思ってることがまっすぐ音になってるし、なんかメジャーのバンドくさくないし。あとやっぱり凄いなっていうのは…ブッチャーズとか。ブッチャーズは足でギター弾いてても凄い(笑)。
─吉村(秀樹)さんは神様みたいな人ですからね。
岸田 何言ってるのか判らへん(笑)。打ち上げの後に吉村さんとコンビニへ行ったんですよ。吉村さん、オモチャの入ってるお菓子を買うか買わないか1時間くらい迷ってたんですけど、結局買わなくて。ホテルに帰って冷静に考えたら、吉村さんと何喋ってたんかよう判らんのですよ(笑)。ハマると感動するんですけどね。
(ここで突然キュ〜っと岸田氏のお腹が鳴る)
岸田 …あ、すいません。
─メシの話題にしますか(笑)。ツアー中ってやっぱり食事は醍醐味ですよね。
岸田 一番楽しみですよね。普通に行くだけやったら余り意味はないと思うけど、行ってみてそこがどういう所なんかなぁっていうのを体験してライヴをやるのは面 白いですよ。
─今まで廻った所で「これは旨かった!」っていうのは?
岸田 大きい所では名古屋のひつまぶし、仙台の牛タン、博多の水炊き。あとは……あ! 鹿児島の黒豚豚骨の味噌ラーメン! やたら旨かった。あと…広島のお好み焼きとかね。それと…
─出ますねぇ(笑)。
岸田 長野の馬刺。蕎麦も旨かった。
佐藤 北海道の鮭。
岸田 うん、あれ旨かった! あと、米子のワニ…あれは特に旨くはないです(笑)。日本の魚介類で一番味が美味しいのは東北〜太平洋。一番身が締まってるのが日本海方面 。一番とっぽい味がするのが和歌山とか南洋のもん。なんかね、大味なんですよ、ガッツ〜ンとしてて。
森 味にガッツがある(笑)。
岸田 魚で俺が一番美味しいと思ったんが、水戸とかね。そこしかいない魚とか結構いるから。博多とかの魚は余り…。
─エッジがなかったですか?(笑)
岸田 ないっすねぇ(笑)。
佐藤 ツアーやると肥えるんですよね…あと、エンゲル係数も上がる。
森 ライヴと食うこと以外、その間がないですからねぇ。
岸田 でも、その土地土地の食いもんと、そこから生まれる音楽って絶対関係してますよ。
─なるほどね。“めんたいロック”って言葉もダテに付いてるわけじゃない、と。
岸田 あれは一番判りやすいですよね。
大村 “牛タン・ファンク”とかあったらな。
森 新しいジャンル!(笑) 聴いてみたいな、それ(笑)。
─それでいくと、くるりの音楽は何て形容されますかね?
岸田 俺らはもう…京都出身だけに“豆腐エレクトロ”!
一同 (爆笑) ─段々と話が本編から遠ざかってますが(笑)、初めて東京に出てきた時って、やっぱり関東の蕎麦には馴染めなかったですか?
岸田 そうですね、あったかい蕎麦はね。でも俺、冷たい蕎麦は絶対こっちのほうが旨いと思う。あったかい蕎麦も慣れたら旨いんやろけど、俺は慣れへんくて。
佐藤 最近はもう東京の蕎麦しか食わへんから、この間関西へ帰って普通の関西のお出しの蕎麦を食ってみたんだけど、美味しくなかった。おうどんは美味しいんですけど。
岸田 あ、ついに! 毒されやがった…(笑)。
佐藤 でも昨日、久しぶりに何が食いたいかって、マクド食いたくなった(笑)。モスバーガーやったらアカンのですよ。なんか、時々マクドが無性に食いたくなる。
岸田 そういうのあるよな。俺も吉野屋の牛丼とかたまに食いたくなる。 ─ジャンクなものを身体に詰め込みたい時ってありますよね。
岸田 ある。常にコーラ飲みたかったりする。「歯ぁ溶けろ!」って。
─メシの話でシメるのも何なんで(笑)、一応インタビューらしく今後の抱負でシメましょう。
岸田 (深く考え込んで)…例えば学校に行ってる時って、余り勉強しないじゃないですか。まぁ、してる人もいるだろうけど、俺は余りしなかったから。で、大人に「後々勉強しといたほうがええで」って言われる。その時は「知るかい!」とか思うけど、でも今になると公民の勉強しといたら税金のこととか役に立ったやろなとか(笑)、そういうのが結構細々あるじゃないですか。くるりの音楽ってそういうものじゃないかな? って。そんなことを言うと苦行みたいですけど、そうじゃなくて、俺らは純粋なことしかやってないというか、不純な戦いはしていないつもりなんで。基本ラインは“音楽にとっていいこと”っていうか。言い方は良くないですけど、「ゴミみたいな音楽もあるんやで!」っていうことを肝に銘じてレコードを探して下さい、と。
佐藤 今日、ここに来るまでモーサムの次のシングルをリピートでずっと聴いてたんですけど、ガッツ感を大事に! 音源は音源で丹念に作ったので、ライヴはライヴで一瞬一瞬を大事に…ガッツ感を持って。ライヴは毎回楽しみたいです。
森 今回のツアーも凄い多いんで、集中力を切らさないように、常に新鮮な気持ちでできるようにやっていきたいと思います。あと、ワールドカップには負けたくないですね。ツアー後半戦の野音と被ってるんですよ。サッカーは好きで観たいんですけど、負けてられない! 大村 アルバムもライヴも、そんなに難しいことはしたくない。シンプルに強く行きたいです。
─加入後、初の長期ツアーですね。
大村 俺、肩こりがひどいんですよ。それがちょっと心配で…。
岸田 こないだ高知でな、こいつ(森氏)揉んだ後に同じマッサージのおばちゃんが俺の所に来て、「仕事は何してはるんですか〜?」って訊かれて「バンドやってます〜」って答えたら、「さっき揉んだ方も音楽やってはるそうですけど、エライ肉厚でしたな〜」やて(笑)。