驚異的な速度で成長を続けるTHE BACK HORN。1stアルバム『人間プログラム』は、BACK HORN特有の、闇の世界から光の中へ突き抜ける生命そのもののような楽曲の数々が、これまで以上に高いレベルで仕上げられており、より多くのリスナーにアピールできるものとして完成した。
彼らの今年最後のライブが3バンド合同企画『化獣』として新宿LOFTで行われるのを記念して、8月号に続いて再びBACK HORNのインタビューをお届けしたい。歴史に残る転換期となった2001年。その最後の月のカバーインタビューを飾るにふさわしいバンドではないだろうか。(Interview:加藤梅造)

THE BACK HORN are:
 Y=山田将司(Vo.)、S=菅波栄純(Gt.)、M=松田晋二(Dr.)


●自分だけ楽しくても多分すぐつまんなくなっちゃう
──昨日(11/16)のクアトロでのワンマンライブは大盛況でしたが、まずは感想から。
S いや、お客さんが、たくさんいましたねえ…
M それ感想じゃないだろう(笑) うん、でもやっぱり始まる前の歓声はすごかったですね。あんなのは初めてだった。
──今のBACK HORNは順調を越えて、勢いすら感じますが。
S どうなんでしょう? でも、バンドはどんどんよくなってると思います。
──これまでShelter、LOFTでもワンマンはやってますが、その時よりも確実に成長してますよね。
M ライブの流れっていうか、組み立てみたいなものは以前のワンマンより上手くできたと思います。
──MCで松田さんが「CDを出した後にライブをやることによって、そのCDが完成していくんだ」みたいなことを言ってましたよね。
M もちろんCDを聴いて終わりでもいいと思うんですけど、わざわざライブを見に来るっていうのは、視覚的なものとか、生身の人間がやっているっていうことを感じることを必要としているんじゃないかなと思って。だから同じ曲が全然違うように聴こえるというのも当たり前のようにあると思うし、どちらも本当だと思うんですね。
──自分たちとしてもライブをやっていく中でCDが完成するという意識はあるんですか。
M 完成というか、曲が身体に染みついてくるという感じです。最近、ライブ後にビデオを見ると、CDよりこっちの方がいいなあと思うこともありますね。
──ライブではお客さんのリアクションがあるっていうのが大きいですよね。昨日もMCで、CDは自分たちが勝手に作ったんだけど、ライブでそれを楽しんでくれると嬉しいって言ってましたよね。
Y なんか、CDは俺らが勝手に作って、それを楽しむ楽しまないもお客さんの勝手で。でも、ライブという楽しむ場所に来ているんだとしたら、やっぱり楽しんで欲しいなあと思って。なんか、何言ったのか憶えてないんですが(笑)
──ライブというのは特殊な空間で、知らない人同士が集まってすごい濃密な空気を作るっていうのが不思議ですよね。
M 音楽というきっかけがあるからでしょうね。こちらがエネルギーをこれでもか、これでもかと放出していった時に、それを受け止めたお客さんの手が自然に上がったり、叫んだり、歌ったりっていう感じ方に変わっていくのは、そこに身内とか他人とかいうのを越えた関係ができるからですよね。言葉じゃなくて感じ合うというか。
──まさに音楽がコミュニケーションになってるってことですよね。
Y 自分のやりたいことをやれるっていうのはすごくいいことだけど、俺は、やりたいことやって、自分だけ楽しくても多分すぐつまんなくなっちゃうから、それでお客さんから答とかが返ってきたら、なお楽しいだろうなって思う。
M みんなそうだべな。CD作ったりライブやったりするってことは、そういうことだろうな。
──特にBACK HORNのファンの人って、BACK HORNが一番好きって人が多いと思うんですよ。普段の生活では得られないような何かを求めてるという感じが強いんじゃないかなと思うんです。だから、お客さんとバンドの結びつきが強いように見えるんです。
M なんか…せつない、ですね。
──せつない?
M いや、いい意味でせつないってことです。そういう現象ってなんか感動しますよね。それでお客さんの望みに答えるかどうかはまた別の話だと思うけど、BACK HORNを一番に思ってくれる人がいるっていうのは、本当に嬉しいことです。

●獣が化けて人間なのか、人間が化けて獣なのか
──山田さんは昔、路上で弾き語りしてたんですよね。
Y ええ、してました。金稼いでました。
──やっぱりバンドと弾き語りは違います?
Y 全然違いますね。それぞれのおもしろさがありますが。弾き語りだと見えてるのがここ(目の前)だけで。
M 客の足下だけ見てるんだろ? 足を止めるか止めないかって。
Y それは違うけど。歌の重要さっていうのを学んだところはありますね。人の心に届かせるにはどうすればいいかっていう。同情でもよかったんです。自分は同情を引くためにやってるわけじゃないけど、きっかけがそれでも構わなかった。
──うーん、なるほど。まあ、そうして路上でやっていた頃からすると、今はクアトロが満員ですから、感慨深いものがありますねえ。
M そういえば、Shelterで5人しか入らなかったことがあったんです。それで西村さん(Shelter店長)と会議開いて、どーしようかって。で、次が最後のつもりで頑張りますって言ってやったんです。そうしたら、今度は30人ぐらい入った。
──その時やめなくてよかったですね。いまや、BACK HORNはLOFT/SHELTERの看板バンドですから。ちなみに、BACK HORN今年最後のライブ(12/21)がLOFTで行われるわけですが、これはどういう感じになるんでしょうか。
M この日は、COCK ROACHとTITTY TWISTERとの3バンド合同企画なんです。特にどのバンドが中心になるってわけじゃなくて、3バンドが協力してやっていこうという。
──タイトルの『化獣 BAKEMONO』は誰のアイデアなんですか?
M TITTY TWISTERが、3バンドだったらこれがいいんじゃないかって言って、ほう、ほう、これはいいと。最初はホラーっぽいなって思ったんだけど、「獣が化ける」と書いて「化獣」で、なるほど俺たち獣みたいだなあって。つまり、獣が化けて人間なのか、人間が化けて獣なのか、みたいな感じ。獣臭いライブにしたいです。それぞれのバンドの持ち味の臭いところを思う存分出そうと。
──キーワードは「臭い」ですか。いいですねえ。ちなみに僕は、最近の無臭だとか無菌とかいうブームがすごい嫌いなんです。人間って本来、臭いのが当たり前だと思うんですよ。
M でも部屋とか臭いのは嫌ですけどね。家に帰りたくなくなる。
──それは単にゴミを捨てないからでしょう。
M そうそう、あと靴の臭いとか(笑) まあ、今度のライブでは、3バンドそれぞれの世界が充満しているようなのが面白いと思うし、感じるところがあるんじゃないかなあ。

●「人間プログラム」って言葉がありそうな気がする
──「臭い」って言葉をきいて思ったんですが、New Albumのタイトルの『人間プログラム』って、「人間」という臭いのする言葉と「プログラム」という無味無臭の言葉が一緒になってますよね。そう考えると、プログラムという言葉がすごい皮肉として感じられますね。
M 皮肉もあるし、人間という2文字の言葉に、プログラムっていう言葉を付けることで、人間の意味がより強力に出るんじゃないかという意図もあります。人間プログラムとはもちろん造語ですが、俺、最近「人間プログラム」って言葉がありそうな気がしてるんだよね。なんか「人間魚雷」みたいな。
──確かに「人間プログラム」ってなんか恐い言葉ですね。どこかで密かに使われてそうな。
M 見えない兵器?
──そう考えると、今の戦争という状況と妙にシンクロしますね。意味のある偶然の一致というか。さらに言うと、ラストの曲『夕焼けマーチ』が絶望の中で希望を示す内容を歌っている所がとても意味があることだと思います。
M 僕らは決してネガティヴな所から出発しているわけではないですから。もちろんトータルで見ればそういう部分はあるけど、たとえネガティヴな言葉を使っていたにせよ、結果的に感じ取れるものがポジティヴなものだったら、どれだけ残酷で危険な言葉でも使ったかいがあると思う。
──きれいな言葉を並べるのは簡単ですからね。
S それほど嘘臭いものはないと思います。
──だから、今回の戦争についてみなさんどう感じているかっていうのにすごく興味があるんです。
M もちろん無関心ではいられないですね。かといって、本気でなんとかしようとか、今すぐ何か行動を起こそうというのはないですが、そこで感じた事は重要だと思うし、少なくとも自分なりに考えていこうと思ってます。
──もちろん人によって行動の仕方は違うでしょう。ジャーナリストはジャーナリストなりの行動の仕方があると思うし。僕が思うのは、ミュージシャンはこういう状況において、すごくメンタルな領域で表現をしていくことができるんじゃないかと思うんです。
S それには鈍感じゃだめだと思うんです。どんな仕事をやってるにせよ、敏感に空気を感じ取っていないと。もし作品と社会がシンクロしているとしたら、やっぱりそこにはムードとして漂っていた何かがあったわけで、それを敏感に
感じることができれば、その時代の表現としてフィットするんだと思います。ボケたら終わりですよね。
──かといって、BACK HORNは流行を狙ったり、時代を追いかけるタイプのバンドじゃないですよね。
S 時代を追いかけるのってカッコいいとは思えないですよね。夢を追いかけるのなら素敵だと思うけど。ある表現者を好きになるっていうのは、その人の中に自分に理解できない宇宙が広がっていて、それをのぞいて見たくなるってことだと思うんです。だから表現者っていうのは、(表現の)対象に没頭していかないと弱いと思うんです。
M 昆虫の不思議なところは解剖していけばある程度わかるかもしれないけど、人間ぐらい複雑になると心の中までわからない。わかんないぶん、おもしろいんだろうけど。
そうだ、「THE BACK HORN研究所」っていうのを作って研究しようか。心理学とか解剖学とかいろいろ(笑)
──なんか、だんだん人間プログラムっぽくなってきましたが(笑) ところで、このジャケットの絵(註:下図参照)って誰が書いたんですか?
M それは俺が。まあ賛否両論ですけど。どう思います?
──巧いとは思わないけど、インパクトがすごいですね。一度見たら忘れないというか。
M 一番残念だと思うのは、自分の許容範囲を超えると嫌いとかダメっていう反応をされることですね。
S 理解できないと怒るやつとかいるよな。
──戦争が起こる一因としてそういうのがあるんじゃないかな。例えば、イスラム教ってなんか理解できないから奴等はおかしいっていう思考回路みたいなのが。昔の日本人もそう思われてただろうし。
M 音楽や絵とかって、理解できないからダメってものじゃないと思うんです。もっと複雑なものだと思う。
──理解できないからこそ面白い。
M そう。映画にも一回観て面白いものと、何度も観て面白さがわかってくるものがありますからね。それはともかく、このジャケットの絵は、今までで一番プレッシャーを感じて書いたんです。
S 初めて見た時、いいのができたと思ったよ。
M これはROOFTOPにだけ明かす秘密なんだけど、ジャケットの謎を言っていい?
──それは是非。
M この地球の絵って、実は地球の写真を見て書いたんです。
一同 ・・・・・・・
──それって秘密にしておくほどのこと?(笑) ちなみにこの地球は後から付け足したんですか。
M そうです。ここに地球がないと、こっち(群衆が砂時計になっている部分)が地球と思われそうで、それはイヤだなあと。
──ああ、それはいい作成秘話ですね。BACK HORNの静かなメッセージが込められている感じがします。では、最後にライブにむけて一言。
S とにかく12月21日は来てください!
M すごい気合い入ってますから。実は3バンドの中で、俺らが広報担当になっているんで、どんどん宣伝して下さい。BACK HORNは今年最後のライブなんで、ホントよろしくお願いします。