花田裕之




 時に我々は、自分が運命を切り開いているのか、それとも運命に流されているのかよくわからなくなる時がある。まあ実際はそのどちらでもなく、両方を行ったり来たりするのが人生というものなのだろうが、自分の意識を、運命を切り開く側に置くか、流される側に置くかで、その人の人生は随分と変わってくるのかもしれない。花田裕之の音楽を聴くと僕はいつも「放浪」という言葉をイメージする。「放浪」とは運命という大きな流れに対して、最もニュートラルな位置で対峙している状態なのではないだろうか。花田裕之は、運命という道程を転がりながらも、常に「人生が転がる先を探している」のだと思う。そして彼が転がっていく場所には、いつも必ずワクワクするようなイカした音楽が流れているのだ。だから僕も、ルースターズの頃から今に至るまでずっと花田裕之の後を転がっているのだと思う。

──今レコーディングをしてる最中だそうですが、どんな感じでやっているんですか?
花田 ドラムと二人だけで。しかもアコギだけの無茶苦茶シンプルな。
──ニューアルバムを出さないのかって、よく言われるんじゃないですか。
花田 うん、言われるね。このご時世だから(笑) でもライブはずっとやってたし、出したくない時は無理してやる必要もないかなと。
──そうですね。花田さんの場合せかしてもいけないという感じがありますよね。
花田 UAのバンドでギター弾いたりとか、そういうことやってれば俺にとっては結構楽しいし。ギター弾いてるということがあれば、自分のレコードを出さなくてもね。あまり追われる感じは好きじゃないし。
──今まで、そういうプレッシャーはありました?
花田 うん、少しあったねえ。まあそれもいいんだけど。
──でも、花田さんのファンの人って、花田さんにあまり多くを期待していないと思うんですよ。リリースラッシュとか、過剰なプロモーションとかは。僕の中では、花田さんは旅に出ちゃってなかなか帰ってこない人というイメージなんです。
花田 何処も行ってないけどね(笑)
──例えば歌詞に「人生が転がる先を探してる」っていうフレーズがあったりして、花田さんにはやはり「放浪している」という印象が強いですね。
花田 気持ち的には定住したくないというのがすごくあるよね。別に何処に行くわけでもないんだけど。
──ギターさえ弾ければいいという感じでしょうか。
花田 でも弾かない時期とかもあって。俺本当に音楽好きなのかな?って思った時期もあった。気がついたら何ヶ月もギター触ってないなあって。
──それは意外ですね。いつ頃のことなんですか。
花田 うーん去年かな。『SONG FOR YOU』(98年のアルバム)を出した後。そういえば、その頃は釣りばっかやってたんだよね。
──何かギターと共通するところがあるんでしょうかねえ。
マネージャー 釣り竿って職人さんの作るものだから、ギターと同じようにヴィンテージとかあっていろいろ奥が深いんですよ。
──なるほど。で、しばらく釣りにはまっていて、また音楽に戻ったきっかけって何だったんですか?
花田 今一緒にレコーディングしてるドラムの人と二人で、たまに横浜でライブをしてたんだけどそれがすごく気持ちよくて、なんとなく録ってみたいなと思いだした。最初一人でスタジオ入って、ブルースのカバーを試しに1曲録ったら楽しくなって。次に自分がどんな曲を聴きたいかなあという感じで曲を作っていって、それをコツコツ録り続けてたら10曲ぐらいになったのかな。
──最初に録ったブルースのカバーって誰の曲だったんですか?
花田 それはスリム・ハーポって人の昔の曲で。何かふと思ったんだよね、その曲録りたいなって。
──すごく花田さんらしいというか、最終的にはブルースに戻るって感じがしますね。
花田 そうやね、やっぱ。

 昨年発売されたルースターズのトリビュートアルバム『RESPECTABLE ROOSTERS』には、実に多くのバンドが参加を希望し、トリビュートアルバムとしては一番の売上げを記録したそうだ。ヒットチャートや武道館などとは無縁だったこのバンドが、いかに大きな影響を後のロックに与えたかが伺えるエピソードだと思う。当然、下の世代にとって、ルースターズを支え続けた花田裕之に対する思いは計り知れないものがあるが、そんな熱い思いを形にしたイベントがロフトで実現されることになった。

──今度行われる「活火山」というイベント(12/17)は、花田さんと若手バンド(drumkan、ミートイーターズ、RUM TAG、他)の対バンですが、これは誘われてすぐOKって感じだったんですか?
花田 うん、音聴いて、このバンド面白そうだなって。
榎本(イベンター) ミートイーターズは北九州っぽいってよくいわれるんですよ。
花田 そう? でも北九州より頭いい感じするけどね(笑)
──最近のバンドはよく聴いたりします?
花田 うん、積極的でもないけど、聴くよ。
──花田さんやルースターズに影響を受けた人はすごく多いから、一緒に演りたいってバンドは多いんじゃないですか。
花田 いやあ、あんまり言われんよ。どうせやらんやろうと思ってるんじゃないかな(笑)
榎本 花田さんには、最初はなかなか近寄りがたいんじゃないですかね。
──ああ、イメージ的にはそうかもしれないですね。でも実際は、結構気軽に受ける方ですよね。
花田 うん、誘われて断ったことはあんまりないかな。まあ断るほどこないけど(笑)
──じゃあ、若いバンドは臆せずにどんどんチャレンジして欲しいですね。
榎本 殺到したりして(笑)
花田 でも若いバンドはいいよね。真っ新な感じが。初対面の方が新鮮でいいよ。

 僕は、この「活火山」というイベントで、ロックンロールが伝承されていく一つの場面を目撃したいと思っている。このような多くの場面によって、ロックは転がり続けていくのだろう。花田裕之がスリム・ハーポから受け取った何かを、この夜僕も感じることができればと思う。 (TEXT:加藤梅造)