萩原健太

■萩原健太 Profile
音楽評論家。
著書に「はっぴいえんど伝説」「ポップスインジャパン」「ロックンロ−ルの時代 」など多数。最新刊は「ウッドストック・サウンド」。98年より「カントリーロックの逆襲」と題したコンピレーションCDを多数監修している。


音楽が生活の一部になっている大人と、同世代の音楽だけでは満足できないちょっと背伸びした子供、そんな人たちのためのイベントが、この「CRT&レココレPRESENTS カントリーロックの逆襲」だ。ほぼ毎月行われているこのイベントでは一体どんなことが行われているのか、そのあたりを中心に一日店長の萩原健太さんにお話を伺ってみました。とにかく音楽好きを自認する人には是非観てもらいたい非常に良質で楽しいイベントであることは間違いないですから。

(Interview:加藤梅造)


──まず、CRT(カントリー・ロッキン・トラスト)とは一体何なんでしょう?
萩原 CRTっていうのはもともと能地祐子(音楽評論家)を中心に、70年代のアメリカのカントリーロックが好きな連中が集まって、なんかやろうよってことではじまったんです。最初は98年にクアトロでライブをやったんですよ。それは、佐野元春さんや細野晴臣さん、鈴木慶一さんなどがカントリーロックのカバーをやるというもので。で、そういうのをやっていると、「こんないいミュージシャンがいるよ」とかいう話になってくるじゃないですか。昔の埋もれてる音源とかもたくさんあるし。じゃあ、CDのコンピレーションも出そうとか、あとそれを基に勉強する場もあるといいなとか。そういう感じで、ここ(プラスワン)で、CRTという大きな音楽愛好家集団の勉強会がはじまったんですね。あと、ロック喫茶の感じというか、家で一人で聴いてるよりも、みんなで集まって酒飲みながらでっかい音で聴いて、「いいよね!」って何となく眼を見交わすっていうのが、やっぱりいいんじゃないですかね。
──レコードコンサートっていうのが昔は結構あちこちで開かれてたんですよね。
萩原 そうそう、ロック喫茶やジャズ喫茶でもあったし、あとレコード屋さんの店頭でもあった。昔は視聴機っていうのがあんまりなかったこともあって、レコードコンサートでその月の新譜を聴いたりしましたね。それは家で聴くよりも楽しかったし、その雰囲気が甦ったら面白いかなと。
──これまでゲストに、たくさんのミュージシャン来ていますが。
萩原 ただ、どっちかというとこの場は聴き手中心のイベントなんです。例えば鈴木慶一さんに来ていただく場合も、あくまでリスナーとしての鈴木慶一さんであるんです。みんなただの音楽好き、そんな感じですね。
──僕ははじめ「カントリーロックの逆襲」というタイトルを見て、いまの時代にカントリーロックとはずいぶん思い切ってるなあ、と思ったんですが(笑)、実際カントリーロックの状況というのはどんな感じなんでしょうか?
萩原 どうなんでしょうねえ。でもこうしてメジャーのレコード会社も動いてくれてるし、量販店ものってきてるし、一時忘れられてたカントリーロックという言葉が今普通に使われてきてるような気はしますね。ただ、カントリーロックを広めようとかいう崇高な意識があるわけでもないし、どう楽しめばいいかという、そういう感触が広まってきているんじゃないかなあ。
──確かに、数年前だとカントリーロックを聴くのはかなり濃いところまでいかないと、そこまでいけない感じもありましたよねえ。
萩原 なんとなくカントリーは白人の音楽でブルースが黒人のものというそういう認識があるんだけど、アメリカの南部とかいくとそれらは一緒くたになってて、それがもうずっと底辺にあったうえでロックがあるんです。でも日本人だと土壌が違うんで、アメリカのロックを楽しもうとしたとき、その底辺の部分を見逃しちゃうんですよね。そこを見逃さずにちょっと掘り下げてみると、今の新しいロック──ベックとかメタリカみたいな連中でさえもが、「あ、こういうことだったのか」というのが、カントリーロックを聴くことでわかるんですよ。そういう謎解きをしていくと、歌詞にしろフレーズにしろ歌い方にしろ、すごく見えてくる。まあそれが目的になっているわけではないけど、カントリーロックを聴くことでいろいろな副産物があってなかなか面白いんですよ。
──まあ、実際プラスワンでやってるイベントも、カントリーロックの難しい話をしてるわけではなくて、音楽を中心に非常に幅広い内容ですよね。次回のゲストはピーター・バラカンさんですし。
萩原 ピーターさんもCRTを非常に面白がってくれてて、最近はかなりはまってるらいしんですよ。だから次回のイベントには、最近の新しい動きのものを持ってきてくれるみたいで、もちろん僕もいろいろ持ってくるので、そのへんの対決も見られると思いますね。
──今後のイベントではどのようなことを考えてますか?
萩原 まああまりカントリーロックだけにこだわらずに、幅は広くとろうと思ってるんです。だから、ストーンズ特集がある可能性もあるし、もちろんエルビスもあるし、ベンチャーズもあるし、あるいはビーチボーイズぐらいまで飛んじゃうかもしれない。そのへんは自由に発想しながらやっていこうかなと。要するに音楽ファンが集まって友達の家行ってレコード聴きながら一晩中盛り上がる、そういう感じがここで実現できればいいかなあと。酒飲みながら「うーん、これはいいねえ」って。
CRTホームページ http://www.DaDooRonRon.com/crt/