BEAT CRUSADERS




“メロディーの地獄博士”という妙な称号を持つhidaka氏率いる「ビートクルセイダーズ」(以下「ビークル」)。3月20日にリリースされた彼らの2ndアルバム『ALL YOU CAN EAT』が巷でかなり評判を呼んでいる。ツボにはまるメロディアスな旋律と洋楽テイスト溢れるアレンジは、一聴すると非常によくできたギターポップを思わせるが、ピコピコしたキーボードによるアレンジメントをはじめ、ビークルは底の知れない懐の深さを持ち合わせている。それは、ブライアン・ウィルソン(ビーチボーイズ)と同種のねじれたポップ感覚とでもいうべきものかもしれない。そもそも「ビートクルセイダーズ」というバンド名(もちろん「フォーククルセイダーズ」のパクリ)からして、一筋縄ではいかない人を食った感じだ。メディアには一切顔を出さない(ライブでは見れる)この謎の集団を率いるhidaka氏に今回お話を伺うことができた。

「以前組んでいたバンドを解散して、アメリカに留学してたんです。英語で歌えるように勉強しようと思って。現地ではベックとかレモンヘッズとかのU.S.Lo-Fi Popをたくさん観てましたね。それで、日本に帰ってから、ギターポップにとらわれずに自由な枠でやろうと思って作ったのがビートクルセイダーズです」

97年に結成し、最初はドラムとふたりで実験的にはじめたビークルは、いくつかのセッションを経て次第にバンド形態へと発展していった。

「メンバーは、とりあえずキャラが面白い奴を集めました。ライブで存在感のあるような(笑)。ベースのumuは、顔担担当です。面白い顔なんで。それでいて、くどい顔のくせにビーチボーイズとかの60年代のさわやかなコーラスものが好きみたいで。ドラムのarakiは広島のモッズあがりの、バリバリGSとかガレージな奴で、パンクなんか聴いたことないという。なんか母ちゃんが新宿でゴーゴーガールやってたらしいんです(笑)。その影響で家にはブルーコメッツやゴールデンカップスのレコードしかなかったらしくて。ビートルズの『デイトリッパー』より先にブルーコメッツの『デイトリッパー』を聴いて、そっちの方がいいとか言ってるぐらいだから。キーボードのthaiくんは普通の人です。普通に、ティーンエイジファンクラブとかレディオヘッドが好きという(笑)。で、その3人の間には音楽的共通言語がないんです。でも僕はそれぞれに共通言語があって、つまりティーンエイジもゴールデンカップスも聴くし、ビーチボーイズも好きだし、そこでつながってるバンドなんです。」

バンドをまとめるhidaka氏は現在31歳。普段も音楽関係の仕事をしているそうだ。ミュージシャンには大きく分けて、音楽をよく聴くリスナータイプとほとんど聴かないタイプがあるが、今でも輸入盤を漁りまくるというhidaka氏は典型的なリスナータイプのミュージシャンといえる。ギターポップ、スカコア、ニューウェイブ・オブ・ニューウェイブなど様々なジャンルが入り乱れる現在の音楽シーンをhidaka氏はどう聴いているのだろう。

「僕の同世代ってもうリアルタイムの音楽は聴かなくなっちゃっうじゃないですか。基本的に音楽が必要じゃない生活になるというか。結婚して子供ができたりして。でも僕はまだ独身で友達もバンドやってる人が多いから、リアルタイムで音楽を聴けるんですよ。メロコアもスカコアも全然OKだし、そういうのを全部聴いた上でミックスしてやるとこんな感じになったんです。自分が今20歳だったらストレートにメロコアとかやってたかもしれないけど、そういうのと同時にWeezerやRentalsを同じ次元で聴いてますから。例えば今の中高生にとっては、Hi-STANDARDはヒットチャートの上位のものとして情報が入ってきて、それが出てきた文脈とかあんまり関係ないじゃないですか。僕の年だと、文脈がわかったうえで、同次元に聴けるっていうのがあるんじゃないですかねえ。」

ビークルの特徴のひとつは、シーンの最前線の音をうまくミックスしているのと同時に、80年代のポストパンク以降のロックが色濃く反映しているところだろう。ビークルは、80'sオマージュのひとつとして『CLASS OF the 80's』(LASTRUM)というコンピレーションにも参加している。

「僕はそこでネーナ(『ロック・バルーンは99』)とキム・ワイルド(『キッズ・イン・アメリカ』)をカバーしてるんですが、今の十代は絶対知らないですよね。うちのメンバーすら知らなかったですから(笑) ただ、この頃の音楽を聴いてた人って30代になるとコンサバにいきがちじゃないですか。でも、コンサバになるのはいつでもできるような気がするし、僕はできるだけラジカルでありたいですね。80年代って時代の狭間みたいな感じだけど、PixiesとかStone Rosesとか面白いものがいっぱいあったじゃないですか。今の状況もすごい80年代初頭に似てると思うんですよ。いろいろと出尽くしてもう新しいものはないんじゃないのと言われているところで、水面下ではいろいろな動きが起こっているところが。5年後、10年後に評価されるような。ビークルもそういうふうになれればいいな。その前に忘れられちゃうかもしれないけど(笑)」

ビークルの歌は英語で歌われているため、あまり直接的にはわからないが、hidaka氏によると、基本的にモテない男の唄とのことだ(笑)。これはhidaka氏の日常を歌っているのだろうか?

「まあ一応フィクションです(笑)、もちろん自分の生活の一部を引用してはいるんですが。基本的に漫画とか映画とか小説が好きなんです。僕は総合芸術としては映画が一番だと思うんですね。コーエン兄弟の『ファーゴ』とか『バートンフィンク』とかすごい好きなんです。そこはかとないユーモアがあって。僕は、基本的に「ひょうきん族」世代なんで、「笑い」で肯定しないとどうしても恥ずかしいというのがあるんでしょうね。」

見るからに文系映画青年といった風貌のhidaka氏は、80'sサブカルチャーにどっぷりと浸かってきたことが会話の端々から感じられる。しかも、さすがに博士の称号をもつだけあって、メジャーからマイナーまで様々な音楽用語が引用され、「ジョンスペンサー・ブルースエクスプロージョン」という単語もhidaka氏が言うと「エントロピー」とか「ジュラ紀」といった学術用語を聞いているような気がしてくる(というのは大袈裟か)。自分でも30歳になってCDを出すとは思ってなかったというhidaka氏は、ミュージシャンとしてこの先どのような道を辿るのだろう?

「どうなっちゃうんでしょうねえ、自分(笑)。もう自分が実験ですね。フランケンシュタイン博士が自分を改造するみたいな。この年になってライブでジャンプするとは思ってなかったですから。こうなったらもう行くとこまで行くしかないです(笑)」

3月にDOMINO'88と全国ツアーを回り、4月20日に新宿LOFTで2nd albumのレコ発ライブを控えるビークル。今、最も勢いのあるバンドだけに、未見の人は是非とも今のうちにライブを確認した方がいいかもしれない。その時は、彼らの謎の一部も明らかになるはずだ。もっともhidaka氏のことだから、手の内すべてを明かすことはないだろうが。